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書籍寸評

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書籍寸評(12) 2001年01月以降

 21世紀になった。人生の後半はこの世紀だ。20世紀に読んできた本は約2500冊。今世紀は死ぬまでどのくらい読めるであろうか。読書のペースが落ちている。いくら読んでも世の中は変わらないが、それでも私は読み続けるであろう。食事や排泄と同じように生活の一部として。


  • 「社長ゲーム」 薄井ゆうじ、講談社、1900円

     私にとって「樹の上の草魚」以来の本である、懐かしい。
     内容は、小さなころから帝王学を学んだ青年が倒産の危機に瀕した会社を救う話。といっても経済小説ではなく青年の人となり、彼を取り巻く人々の薄ら寒い人間関係が描かれている。
     面白い部分は、この主人公の青年がラスベガスで生活して、ブラックジャックで大金を稼ぐところ。カウンティングというギャンブル技術を用いている。私はラスベガスではポーカーしかやらなかったけど、バカラとかブラックジャックのテーブルは、素人には近寄りがたくて、独特の雰囲気がある。そこで必勝法を自分で考え出して実践していく主人公には共感が持てるのである。
     雰囲気的には、源氏鶏太の小説の現代版のようである。
    (お勧め度:70/100)2001/04/07登録

  • 「神保町の怪人」 紀田順一郎、東京創元社、1700円

     まずカバーがすばらしい。そして書名がすばらしい。古本という題材を使ったミステリにぴったしの、そして中身を知りたくなるようなネーミング。三編の中編小説が入っているが、どれも古書マニアならではのこだわりようで、古書マニアでもない私でも充分楽しめる。こういう世界もあるのだなあと。
     知らなかったのだが、紀田順一郎の古書ミステリは他にもあるようで、もし見かけるようであれば、読んでみようかと思う。「日本語大博物館」でもこだわり度は110%であったが、この本もすばらしい。すべての本好きにお薦め。
    (お勧め度:88/100)2001/04/02登録

  • 「血の味」 沢木耕太郎、新潮社、1600円

     どんよりとした小説。『深夜特急』からして明るい文体ではなかったが、いわゆる著者らしい雰囲気か。時と気分にも依るが、嫌いではない。帯には「中学三年の冬、私は人を殺した」と淡々と書いてあるが、まさにこの一文に尽きる内容である。漂うやるせなさが人を動かす、運命のような殺人、なんだか今の世相を映し出しているようで、ギクリとする。
    (お勧め度:80/100)2001/04/02登録

  • 「新・憂国呆談 神戸から長野へ」 浅田彰、田中康夫、小学館、1600円

     言いたい放題で面白い。話題となる分野が幅広く、遠慮しない気遣いもないのがよい。共感できるモノも納得いかないモノもあるが、それはそれでよい。
     私は、長野県知事になってからの田中康夫の言動はどうかと思うことが多々ある。マスコミはやんややんやであるが。しかし、その言動の原点は、神戸空港反対運動や阪神淡路大震災ボランティアとか、そういった実体験であろうから、これだけを読んで、あるいは作為的な報道だけを見て、納得いかないと結論づけるのは危険と思う。この本も同様である。
     独裁者となってしまった県知事、それは今までと立場が逆転しただけ。議会制民主主義の否定、ルールなき権利、制約あっての自由、勝てば官軍・・・、いろいろ言いたいことがあるが、ここでは我慢して、この本を薦めておくだけで終わっておこう、またの機会に。
    (お勧め度:85/100)2001/03/21登録

  • 「狼は帰らず」 佐瀬稔、山と渓谷社、1600円

     アルピニスト 森田勝の生涯。残念ながら多くのクライマーが辿ったように岸壁に散ってしまっている。グランド・ジョラスでの滑落。一般社会人としての生活を犠牲にし、また組織に馴染むことなく、岸壁に這い蹲りよじ登ることに人生を費やした孤高の人である。私は、柵を捨てて生きたいように生きることが出来ない、だからこの森田勝のような生き方は羨ましい。
     森田勝は、シャモニーやグリンデルワルトを愛した。私は、どちらも行ったことがあるが、本当にすばらしいところであった。森田が「ここで暮らせないかなあ」とため息をついた気持ちは実感としてわかるような気がする。
    (お勧め度:80/100)2001/03/20登録

  • 「聖の青春」 大崎善生、講談社、1700円

     村山聖は、難病ネフローゼと闘い29歳でなくなっているので、その人生を面白いという表現をしてもいいものか。
     村山聖は棋士である。しかも天才棋士。名人一歩手前まで一気に上り詰め、あの羽生善治をも下している。病院のベッドで将棋の戦術書を読みそれを覚え、プロになってからも病院から対局所に向かい、病気とも闘いながらひたすら名人を目指す。数千冊の小説と漫画に囲まれ、ボストンを好み、風呂にも入らず爪も切らない。まさに異端児、しかし純粋、純情、魅力に溢れた人物である。
     棋士には魅力的な人物が多い。この本にも出てくる棋士、先崎学の「一葉の写真」という本も面白かった。勝つことだけが意味を持つ根っからの勝負師の世界、そこには、我々サラリーマンとは違う苦労と魅力があるのだろう。
    (お勧め度:95/100)2001/03/17登録

  • 「M」 馳星周、文藝春秋、1524円

     絶望と快楽、「M」はマゾのMである。
     「不夜城」以来、なんだか今ひとつ「不夜城」を越える魅力を感じなくて新たな本を手にすることはなかったのだが、新境地ということで毛並みの変わった本を出してきたので読んでみました。
     うーん、いわゆる、まあまあなんだけれども、あれだけの書評を書いてきた板東齢人ともあろう方、この路線一直線は勘弁してもらいたい、この本は許す!って感じです。もっともっと面白い小説が書けるのではないでしょうか。
     私は、書店購入する場合、書店のカバーは不要と必ず言いますが、この本の場合、もう一枚、出版社のカバーを脱がしてください。刺激的な装丁です。で、なんでこんなことを書くかというと、風呂で本を読むのですね、私。それでカバーを外して風呂に持っていく。もちろん、私はハダカ。それでそれで、このデザイン。いやー、困ってしまうんですなあ、なんか妖しい雰囲気で。家族には見せられないなあ。
    (お勧め度:72/100)2001/03/17登録

  • 「ジャンプ」 佐藤正午、光文社、1700円

     面白い、ミステリー仕立てであるが恋愛小説である。以前、佐藤正午の小説は読んだことがあるはずと書棚を探すとありました。『放蕩記』。奥付を見ると10年前、1991年の発行でした。内容は忘れている、しかし、面白かったという記憶のみ蘇る。うーん、やっぱり。
     この『ジャンプ』については、こういうことは現実にあるのだろうなという親近感と、小説ならではの意外な展開と両方を兼ね合わせていて、楽しめる。さっき今までここにいた人が、ふと気が付くといなくなる、なぜか、疑問が疑問を生み、そして真実は意外であり、しかし当然であるという、なんとも不思議な気分にしてくれる。実に、巧みな構成は読者をうならせる。本当に面白い。必読。
    (お勧め度:95/100)2001/03/10登録

  • 「スタミナ」 斎藤綾子、毎日新聞社、1000円

     読んでいてとても疲れる本。サンデー毎日に連載されていたものであるが、エッセイとはいえ、なんの目的で書いているのか全く見えてこないところが、疲れてくる原因か。訴えるモノが何なのかわからん。
     こういうの喜ぶのはやっぱりギラギラエロエロおやーじだけだろうなあ。私も中年の域に入ってきたので危険危険。注意注意。
    (お勧め度:30/100)2001/03/10登録

  • 「運命の暗示」 松岡圭祐、小学館、1600円

     千里眼シリーズの完結編。面白かった。3部作の最後であるが、最終に至ってここまで読者を興奮させる痛快なイベントと伏線をサラサラと解いていく店舗の良さを維持できるのは、著者の読者を楽しませるという姿勢の賜と感じる。娯楽、エンターテイメントとして一流である。
     読者は、面白ければ多少の矛盾とか、そんなまさかという非現実性は許容範囲として無視して、むさぼるように先を読み進めるだろう。そういった意味では、この本はシリーズの中でももっとも面白く、そしてうまくまとまっていると思う。
     中身については、あえて触れないが、間違いなくお薦め。出来たら3部作一気に読んでもらいたいと思う。
    (お勧め度:95/100)2001/03/10登録

  • 「ジャパン・シンドローム」 渥美饒兒、作品社、2200円

     原発事故、隠蔽、利権。私の好きなテーマであるが、前半については読むことが辛かった。話の進め方が強引、必然性の有無など自分勝手すぎてイライラの連続であった。従って中身に集中できない状態であった。
     後半、地検特捜部が出てきた頃から、結構読み込めてきた。しかし、あっと驚くような仕掛けはなく、やはり全体を通して退屈な展開で残念。もう少し、メリハリのあるような主人公に設定したほうが良いのでは。
     原発についても、著者のアンチ原発の姿勢が最初からあり(と感じられる)、その検証とか原因について触れられていないことも不満。不条理のまま進められることは納得がいかない。
    (お勧め度:50/100)2001/03/04登録

  • 「20歳のバイブル」 高野生、情報センター出版局、880円

     副題「北朝鮮の200日」。1988年の本で、私は再読。書棚から偶々手にとって読み始めたら止まらなくなった。当時20歳であった著者も三十路を越し、もう中年の域に入っていることでしょう、あー、私も同様ですが。
     あらためて読み直しましたが、とても新鮮な気持ちで読めた。北朝鮮国内の状況はこの十数年前よりも経済的には悪化し、今はここに書かれているようななんとなくゆとりを感じる事はないであろう。著者は北朝鮮国内に潜入して、意に反して思想教育を受けたのだが、もし現在ならどうであろうか。政治的には一見緊張緩和を装っているが、果たして・・・。昨日もノドン配備についての発表があったようであるが、当時と比べて経済状況の悪化を受けて、切羽詰まった感があるように感じる。なんか怖い。
     私がこの本を読んだだけの感じでは、当時の方が国自体が安定しているように感じる。
    (お勧め度:90/100)2001/03/04登録

  • 「わたくし的読書」 太田垣晴子、ダ・ヴィンチ・ブックス、950円

     著者はいわゆる乱読タイプのようで、かつかなりの読書量がありそうです。この本のあとがきが良いです。引用すると、「まったく活字であれば何でもいいという読書。でも、どんな本でもあれ、読んだものは自分になんらかの影響を与え、記憶や知識に残っていくものなので、ムダってことは絶対ないなあ」の部分、私もまったくその通りだと感じております。なんか安心するなあと著者に好感を持ってしまったわけです。
    (お勧め度:65/100)2001/02/24登録

  • 「恐怖」 筒井康隆、文藝春秋、1048円

     登録してみて初めて気が付いたのであるが、筒井康隆の本の寸評は初めてだったのですね。断筆宣言(解除)以降では最初の本になります(私が読んだモノでは)。ということで随分久しぶりの筒井小説ですが、やっぱり行間から醸し出されるすべてが筒井康隆であって、さすがだなあとあらためて関心しました。
     それにしても、ここに書かれている恐怖はよくわかりますね、噂や他人の目、そういうもの共通の心理で、じわじわと押し寄せてくる恐怖がじっくりと書かれています。
     少し前、FRYDAYで著者の写真を見ましたが、なんか歳をとっていました。写真といえば、私の自慢の写真は、「「朝のガスパール」「電脳筒井線」完成記念 朝までセッション」の時の写真に筒井康隆・山下洋輔・渡辺香津美・俵万智らと一緒に写っているもので、思い出してこれを探し出して見てみると、当時の笑犬楼さんはまだまだ若かったと思う次第です。もちろん、外見上だけでありますが。
    (お勧め度:90/100)2001/02/24登録

  • 「消されかけたファイル」 麻生幾、新潮社、1500円

     「戦慄」に続くモノで、相変わらず読み物としては抜群に面白い。しかしながら、内容によっては、すでに語り尽くされた事件の追加的なモノもあり、少し飽きてきた感がある。具体的には、オウム関連とグリコ森永事件についてである。取り上げるなら核心をつくはっきりとした表現でと。
     その他の今回取り上げられた内容については、「消されかけた・・・」というよりも「忘れかけた」事件であり、あらためてこうして読み直してみると新たな面も含めていろいろ感じる部分は多い。
     ちなみに、この著者の本は、てにをはが合わない箇所多くありませんか。私も人のことを言えませんが、もう一度読み直してみれば直せるような初歩的な誤り。特にあら探しをしているわけではありませんが、読んでいてとても気になります。
    (お勧め度:80/100)2001/02/17登録

  • 「やりにげ」 みうらじゅん、OH!文庫(新潮社)、562円

     本気でHなじゅん文学を新境地をきり開く、なんてつもりはないだろうけど、よくまあ書いたなあと感心する。この本は、著者の体験談的エロ話が、飽きることなく累々と語られている。読む方も深く考えることなくぐんぐん読み進み、疲れることがない。たまにはちょっと息抜き、という感じ。文庫本解説が女性である内田春菊というのがウレシイ。
    (お勧め度:70/100)2001/02/17登録

  • 「冥府の虜」 高嶋哲夫、祥伝社、1900円

     「スピカ」の著者の作品で、同じ原発を扱っているということで大いに期待を持って読み始めたのでが、残念ながらスピカ以上の感動はなかった。
     その原因。全体的に説得力不足である。例えば動機、戦闘シーンのアンバランスさなど。それは結局、そんなことはないだろうと読者に疑問を抱かせ、感情移入の度合いに影響する。また、あっと言わせるトリックやどんでん返しもほとんどないのも残念。P107の誤植、研究室の女性を「さん」づけの表記、そのほか細かい部分での説明不足。どうも書き急いだではないかと思う。(ここまで書いて、「スピカ」の感想を読んでみたら、似たようなことが書いてあった。)
     といっても著者の専門分野とも言える原発関係。社会的に注目される分野であるので、またもうひとひねりして、どんどん書いてもらいたい。
    (お勧め度:60/100)2001/02/03登録

  • 「ゲノムの方舟」 佐々木敏、徳間書店、2400円

     面白い!書き下ろし2000枚、満足行く読み応え、怠けきった私の脳味噌を刺激してくれました。国際冒険小説ということであるが、思いっきり日本人が活躍してくれてこれもうれしい。
     遺伝子学という私には説明されても理解できそうもない分野を主題としてわかりやすく(これがウレシイ)ストーリが淡々と進めていく我慢強さが、全体を厚く重厚な小説に仕上げている。書き急いでいないのがよい。
     全体を通してストーリを楽しんだだけではなく、科学や人類学、国際政治、差別や人口問題等々、なんとなく楽しみながらも賢くなったような気分になる。幅の広い視野で多くの分野を取り上げ小説の中に小道具として効果的に使っている。作者の奥深い知識に、あらためて敬意を払いたい。
    (お勧め度:98/100)2001/01/29登録

  • 「遺言」 清水潔、新潮社、1400円

     副題として「桶川ストーカー殺人事件の深層」とある。読んでいくにつれ、当時の新聞記事を読んだときのことをだんだんと思い出した。とにかく報道される内容がつじつまが合わなく、かつ、次々と理解のできない事実が明らかにされたのである。
     この本の著者は、写真週刊誌「FOCUS」の記者である。当時、この事件を追い続け、解決の糸口となる記事を発表し続けた。
     この事件を最初から最後まで通してみるとまさに異常である。断片ではわからない事実がよく見えてくる。細切れの週刊誌の記事だけで物事を判断いてはいけないなと感じた。
    (お勧め度:85/100)2001/01/22登録

  • 「追跡者」 福本博文、新潮社、1700円

     ノンフィクションということであるが、なかなか小説風に描かれており読み物としても大変面白い。いわれるいう探偵稼業を追いかけたものであるが、探偵になるまでの経過や境遇が尋常ではなく、それだけでも充分に1冊の小説になるという感じである。
     映画や小説の探偵と、実際の探偵との差は大きい。この地味な探偵家業をここまで面白く読ませてくれるのは、良質な素材、筆者の周到な取材と筆力であると思う。
    (お勧め度:85/100)2001/01/10登録